「派遣が向いているか」ではなく、「何を優先すると派遣になるか」で考える。優先するものが決まれば、雇用形態は後から決まる。
先に答えを書く。次の4つのどれかを優先するなら、派遣が向く。どれも当てはまらないなら、直接雇用のほうがいい。
4つとも「その代わり」がある。 片方だけを取ることはできない。
| 優先するもの | 引き換えに諦めるもの |
|---|---|
| ① 働く日と時間を、自分で決めたい | 収入の総額 |
| ② 人間関係を、区切りたい | 職場での立場 |
| ③ 時給を上げたい | 別枠の賞与・退職金 |
| ④ 職場を、試してから決めたい | すぐに決まること |
① 働く日と時間を、自分で決めたい
なぜ派遣だと叶うのか
働く条件が、書面で先に決まるからになる。
派遣会社は、派遣をする前にあらかじめ、就業条件を本人に明示しなければならない(派遣法34条1項)。そこに書かれるものに、次が入る。
| 明示される項目 |
|---|
| 業務の内容 |
| 就業の場所と組織単位 |
| 就業の日 |
| 就業の始業・終業の時刻、休憩時間 |
| 時間外労働・休日労働をさせる場合はその旨 |
「今日は残ってほしい」「来週はシフトを増やしてほしい」が、そのままでは通らない。 契約の外だからになる。
直接雇用でも労働条件は明示されるが、派遣は派遣先が雇い主ではないので、派遣先の判断だけで条件を変えられない。ここが違いになる。
引き換えに諦めるもの
収入の総額になる。
働く日数を絞れば、そのぶん月の収入は減る。さらに週20時間を割ると社会保険に入れなくなる(このほか月8.8万円以上・学生でない・派遣元が51人以上などの条件がある)。詳しくは社会保険の記事で扱っている。
「働く日を選べる」と「たくさん稼げる」は同時に取れない。
② 人間関係を、区切りたい
なぜ派遣だと叶うのか
言う先が、働く場所の外にあるからになる。
苦情の処理は、法律で職務として決められている。
| 誰 | 職務 | 条文 |
|---|---|---|
| 派遣元責任者 | 派遣会社が選ぶ。苦情の処理に当たることが職務に入っている | 法36条3号 |
| 派遣先責任者 | 派遣先が選ぶ。同じく苦情の処理に当たる | 法41条3号 |
| 派遣先そのもの | 苦情を適切かつ迅速に処理する義務 | 法40条1項 |
職場の中で我慢するか辞めるか、の二択にならない。 派遣元に言う筋道が、制度として置かれている。
また、契約には期間がある。合わなければ更新しないという形で終われる。
「その職場を続けないこと」と「派遣元との雇用が終わること」は別になる。登録型では雇用契約も一緒に終わるが、無期雇用派遣では派遣元との雇用は続く。詳しくは契約更新と無期雇用派遣の記事で扱っている。
引き換えに諦めるもの
職場での立場になる。
深く入らない代わりに、深く扱われない。 責任のある仕事や、長い期間かけて育てる役割は回ってきにくい。これは制度ではなく実態の話になるが、同じ組織単位(課など)で働ける期間に3年の上限がある以上、構造的にそうなる。
③ 時給を上げたい
なぜ派遣だと叶うのか
経験年数で、下限そのものが上がるからになる。
労使協定方式(賃金の決め方の1つ)では、賃金の下限が「職種別の基準値 × 能力・経験調整指数 × 地域指数」で決まる。
この指数は求人の時給そのものではない。 「これを下回ってはいけない」という下限を作るための数字になる。その下限が、勤続年数で上がる。
| 能力・経験 | 0年 | 3年 | 10年 | 20年 |
|---|---|---|---|---|
| 指数 | 100.0 | 124.8 | 142.7 | 177.4 |
労使協定方式で20年相当の能力・経験として扱われるなら、0年の1.774倍が下限になる。どの区分に当てはめるかは労使協定で決まるので、協定を見れば分かる。詳しくは労使協定方式の記事で扱っている。
実際にいくらもらえるかは求人による。
引き換えに諦めるもの
別枠の賞与・退職金になる。
退職金は、労使協定方式のなかに扱いが組み込まれている。 一般基本給・賞与等に5%を乗せた額を退職金の分とする方法があり、この場合は時給に含まれる形になる。別枠で年2回振り込まれる賞与のような形にはならない、という意味になる。
時給だけを比べると派遣が高く見えるが、年収で逆転しうる。 賞与が年2回出る職場と比べるなら、その差を時給で埋められるかどうかになる。
分かれ目は、勤務時間が安定しているかどうかになる。シフトが減る月があると、年収では負ける。詳しくは「やめとけ」の記事で扱っている。
④ 職場を、試してから決めたい
なぜ派遣だと叶うのか
紹介予定派遣という形があるからになる。
普通の派遣では、派遣先が働く人を選ぶ行為(特定行為)は制限されている。ところが条文の括弧書きで、紹介予定派遣だけが外されている。
労働者派遣(紹介予定派遣を除く。)の役務の提供を受けようとする者は、(略)派遣労働者を特定することを目的とする行為をしないように努めなければならない。
(派遣法26条6項)
外されている=面接ができる。 指針も「紹介予定派遣の場合を除き、労働者派遣に先立って面接すること、履歴書を送付させること(略)を行わないこと」と書いており、紹介予定派遣では事前の面接と履歴書の送付ができることになる。
つまり、お互いに見てから決める形になる。働いてみて合えば直接雇用に移り、合わなければ移らない。
断ってよい。 直接雇用に移るかどうかは、派遣先と本人の両方が決める。
引き換えに諦めるもの
すぐに決まることになる。
お試し期間は最長6か月になる。指針が「6箇月を超えて、同一の派遣労働者の労働者派遣を行わないこと」と定めているためになる。半年かけて、直接雇用にならないこともある。
「直接雇用」は正社員という意味ではない。 契約社員になることもあるので、切り替え後の雇用形態・賃金・契約期間を、始める前に見ておく。詳しくは紹介予定派遣の記事で扱っている。
4つとも当てはまらないなら
直接雇用のほうがいい。
| こう思うなら | 直接雇用 |
|---|---|
| 収入は多いほうがいい | ○ |
| 同じ職場で長く働きたい | ○ |
| 賞与や退職金がほしい | ○ |
| 職場の中で責任のある役割を持ちたい | ○ |
派遣は「条件を1つ手に入れる代わりに、別の条件を手放す」働き方になる。手放したくないものしか無いなら、選ぶ理由が無い。
書かなかったこと
「コミュニケーション能力が高い人が向いている」とは書かない。 これは誰でも自分に当てはまると思える言い方で、判断の材料にならない。同じ理由で「柔軟な人」「体力がある人」も書いていない。
性格ではなく、優先するもので決める。 そのほうが自分で判定できる。
出典
- 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律 第26条第1項(労働者派遣契約に定める事項=明示される項目の元になる)、第26条第6項(特定行為。紹介予定派遣を除く)、第34条第1項(就業条件等の明示)、第36条第3号(派遣元責任者=苦情の処理)、第40条第1項(派遣先による苦情の処理)、第41条第3号(派遣先責任者=苦情の処理)(e-Gov法令検索・2026年8月25日取得)
https://laws.e-gov.go.jp/law/360AC0000000088 - 厚生労働省「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」第2の15(紹介予定派遣=6箇月の上限)(2026年8月25日取得)
https://www.mhlw.go.jp/content/000920084.pdf - 厚生労働省「派遣先が講ずべき措置に関する指針」第2の3(特定を目的とする行為=事前面接・履歴書の送付。紹介予定派遣の場合を除く)、第2の18(紹介予定派遣=6箇月の上限)(2026年8月25日取得)
https://www.mhlw.go.jp/content/000717005.pdf - 厚生労働省職業安定局長「令和8年度の一般賃金等について」(職発0825第1号・令和7年8月25日。能力・経験調整指数)(2026年8月25日取得)
https://www.mhlw.go.jp/content/001547248.pdf


