「103万円を超えないように」と言われて、シフトを調整している人がいる。
その数字は、もう古い。 令和7年度の税制改正で、税の壁は123万円になった。
そして壁は1つではない。税と社会保険で、別々にある。
この記事の「税」は所得税の話になる。住民税は自治体の条例で非課税の基準が違うので、数字を出せない。気にする場合は市区町村に確かめる。
なぜ123万円になったのか
2つの数字が引き上げられた。
| 改正前 | 改正後 | |
|---|---|---|
| 同一生計配偶者・扶養親族の合計所得金額の上限 | 48万円 | 58万円 |
| 給与所得控除の最低額 | 55万円 | 65万円 |
条文を見る。
三十三 同一生計配偶者 居住者の配偶者でその居住者と生計を一にするもの(略)のうち、合計所得金額が五十八万円以下である者をいう。
(所得税法第2条第1項第33号。扶養親族=同項第34号も同じ58万円)
前項に規定する収入金額が百九十万円以下である場合 六十五万円
(所得税法第28条第3項第1号=給与所得控除額)
58万円 + 65万円 = 123万円。これが新しい壁になる。
給与収入が123万円以下なら、給与所得控除65万円を引いて合計所得金額が58万円以下に収まる、という関係になる。
税の壁を超えたらどうなるか
段階がある。いきなり全部が無くなるわけではない。
本人にかかる税
| 給与収入 | |
|---|---|
| 123万円まで | 所得税がかからない |
| 123万円を超える | 所得税がかかりはじめる |
配偶者の側の控除
| こちらの給与収入 | 配偶者が受けられる控除 |
|---|---|
| 123万円まで | 配偶者控除(38万円) |
| 160万円まで | 配偶者特別控除が満額(38万円) |
| 160万円を超える | 配偶者特別控除が段階的に減る |
親などの扶養控除も、123万円が境になる(扶養親族=合計所得58万円以下)。
配偶者特別控除は、配偶者の合計所得金額が133万円以下まで続く(所得税法83条の2)。合計所得95万円以下なら満額38万円、それを超えると段階的に減っていく。
「壁を1円でも超えたら大損」ではない。配偶者特別控除があるので、手取りが逆転する幅は限られる。
ただし配偶者控除・配偶者特別控除には、扶養する側の所得が1,000万円以下という条件がある(同法83条・83条の2)。
社会保険の壁は、別にある
こちらは税とは無関係に動く。
判定の性質が違うので、分けて見る。
106万円=自分が加入する側の判定
勤め先で条件を満たすと、自分が被保険者になる。
| 条件 |
|---|
| 週20時間以上 |
| 月8.8万円以上 |
| 学生でない |
| 勤め先が51人以上 |
130万円=扶養から外れる側の判定
上の条件に当たらない場合でも、収入が増えると被扶養者でなくなる。その目安が130万円になる。
106万円は「入る」判定、130万円は「外れる」判定になる。同じ壁ではない。
130万円は「見込み」で見るのが実務になる。税が「その年の合計」で決まるのと違い、これから先の収入の見通しで判断される。ただしこの扱いは条文に書かれていないので、加入している健康保険に確かめることになる。
106万円という数字は、法律に書かれていない。 月8.8万円という要件を12倍した目安になる(8.8万円×12=105.6万円)。
130万円も、条文には書かれていない。 健康保険法3条7項は「主としてその被保険者により生計を維持するもの」としか定めていない。130万円は行政の運用による基準になる。
詳しくは社会保険の記事で扱っている。
2026年10月から、106万円の壁が変わる
厚生労働省が、2026年10月に賃金要件(月8.8万円)を撤廃予定と案内している。
撤廃されると、週20時間以上なら金額に関係なく加入対象になる(規模と学生の要件は残る)。つまり「106万円を超えないように」という調整が意味を持たなくなる。
勤め先の規模の要件も段階的に下がる(2027年10月に36人以上、最終的に2035年10月にすべての規模)。
制度が動いている時期になる。実際に調整するときは最新の情報を確かめる。
派遣で気をつけること
1. どの会社で数えるか
| 税 | その年のすべての収入を合算する。複数の派遣会社で働いていても合計 |
|---|---|
| 社会保険(106万円) | 1つの派遣会社ごとに判定する。合算しない |
複数登録している人は、ここが分かれる。 税は合算、社会保険は会社ごとになる。
2. 交通費の扱い
3つで扱いが違う。
| 何の判定か | 通勤手当を |
|---|---|
| 税(123万円) | 非課税限度内なら含めない |
| 8.8万円(106万円の判定) | 含めない。条文が「省令で定めるものを除く」としている(健保法3条1項9号ロ) |
| 130万円(扶養から外れる判定) | 行政の運用による。加入している健康保険に確かめる |
「交通費込みで計算するのか」は、どの壁の話かで答えが変わることになる。
3. 年の途中で契約が変わる
派遣は契約が更新されたり、途中で就業先が変わったりする。年収の見通しが立てにくい。
12月にまとめて調整しようとすると間に合わない。年の前半から、月ごとの上限を決めておくことになる。
確かめること
1. 自分がどちらの壁を気にしているか(税か、社会保険か)
2. 勤め先の規模(51人以上かどうかで106万円の判定が変わる)
3. 交通費が収入に入るか(税と社会保険で違う)
4. 複数の派遣会社で働いているか
5. 扶養する側の所得(1,000万円を超えると配偶者控除が使えない)
2は派遣元の規模になる。派遣先ではない。
もう1つ、扶養する側の勤め先に、配偶者手当・家族手当がある場合は、その支給条件も見ることになる。法律上の扶養とは別に、会社の規程で基準が決められていることがある。
出典
- 所得税法 第2条第1項第33号(同一生計配偶者=合計所得金額58万円以下)、第34号(扶養親族=同じく58万円以下)、第28条第3項(給与所得控除額。第1号=収入190万円以下は65万円)、第83条(配偶者控除)、第83条の2(配偶者特別控除=合計所得金額133万円以下)(e-Gov法令検索・2026年8月25日取得)
https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033 - 健康保険法 第3条第7項(被扶養者=主としてその被保険者により生計を維持するもの。金額の定めは無い)、第3条第1項第9号(短時間労働者の要件)(e-Gov法令検索・2026年8月25日取得)
https://laws.e-gov.go.jp/law/211AC0000000070 - 国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」(扶養親族等の合計所得金額の要件が58万円以下に、給与所得控除の最低保障額が65万円に。給与収入123万円以下なら合計所得金額58万円以下)(2026年8月25日取得)
https://www.nta.go.jp/users/gensen/2025kiso/index.htm - 厚生労働省「社会保険適用拡大特設サイト|社会保険加入の要件」(2026年10月の賃金要件撤廃予定、企業規模要件の段階的引下げ)(2026年8月25日取得)
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/jugyouin/taisho/


