「派遣だと社会保険に入れない」という話を聞くことがある。入れる。 ただし要件があり、しかも保険ごとに違う。
まとめると、こうなる。
入るのは派遣元の保険になる。保険料を半分負担して納めるのも派遣元になる。派遣先ではない。
| 保険 | 主な要件 | 根拠 |
|---|---|---|
| 労災保険 | 全員。要件なし | 労災保険法3条1項 |
| 雇用保険 | 週20時間以上 + 31日以上の雇用見込み | 雇用保険法6条 |
| 健康保険 | 下記の判定 | 健康保険法3条1項 |
| 厚生年金 | 健康保険とほぼ同じ。ただし年齢の上限が違う | 厚生年金保険法12条 |
健康保険・厚生年金の判定
先に言葉を2つ。所定労働時間=契約で決めた働く時間。通常の労働者=その事業所のフルタイムの人になる。比べる相手は派遣元にいるフルタイムの人になる。誰と比べているかは、派遣会社に聞けば分かる。
条文は「入れる人」ではなく「入れない人」を並べる形になっている(健保法3条1項ただし書、厚年法12条)。そこから読み解くと、判定はこうなる。
まず、4分の3以上か
通常の労働者と比べて、週の所定労働時間または月の所定労働日数が4分の3以上なら、それだけで加入になる。
週40時間の職場なら、週30時間以上が目安になる。
4分の3未満なら、3つの条件
4分の3未満でも、次のすべてに当てはまれば加入になる。
| 条件 | |
|---|---|
| 1 | 週の所定労働時間が20時間以上 |
| 2 | 報酬が月額8万8千円以上 |
| 3 | 学生でない(高校生・大学生など) |
条文は逆の書き方をしている。「週20時間未満」「8万8千円未満」「学生」のいずれかに当たれば被保険者としない、という形になる(健保法3条1項9号イ〜ハ)。
会社の規模がある(健康保険・厚生年金)
条文の本体には書かれていないが、附則に規模の要件がある。
この条において特定適用事業所とは、事業主が同一である一又は二以上の適用事業所であって、当該一又は二以上の適用事業所に使用される特定労働者の総数が常時五十人を超えるものの各適用事業所をいう。
(公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律 附則第46条第12項)
そして同条1項が、特定適用事業所以外では、4分の3未満の短時間労働者を被保険者としないと定めている。
つまり51人以上の事業所でなければ、上の3条件を満たしても加入にならない。
判定をまとめる
健康保険・厚生年金は、次の順で見ることになる。
| # | 見るところ |
|---|---|
| 1 | 4分の3以上働くか → はい なら加入 |
| 2 | いいえなら、週20時間以上・月8.8万円以上・学生でないか |
| 3 | かつ、派遣元が51人以上か |
| 4 | そして、2か月を超えて使用される見込みがあるか(下記) |
1から4までを別々の話として読まない。すべて同じ判定の一部になる。
この「事業所」は派遣元の事業所になる。派遣先の規模ではない。大手の派遣会社ならほぼ該当するので、短時間で働く人でも加入対象になりやすい。
2026年10月から、8万8千円の要件が無くなる
厚生労働省が、2026年10月に賃金要件を撤廃予定と案内している。
理由も示されている。
最低賃金の上昇により、週20時間以上働く方は、自動的に社会保険の加入要件を満たすため、賃金要件を意識する必要がなくなります
つまり2026年10月以降は、週20時間以上なら金額を気にしなくてよくなる(規模と学生の要件は残る)。
会社の規模の要件も、段階的に下がる予定になっている。
| 時期 | 対象になる従業員数 |
|---|---|
| 2027年9月まで | 51人以上 |
| 2027年10月から | 36人以上 |
| 2029年10月から | 21人以上 |
| 2032年10月から | 11人以上 |
| 2035年10月から | すべての規模 |
この記事は2026年8月時点の内容になる。上の予定は変わることがあるので、実際に加入するときは派遣会社に確認する。
「2か月以内の契約だから入れない」は、もう違う
条文にこう書かれている。
二月以内の期間を定めて使用される者であって、当該定めた期間を超えて使用されることが見込まれないもの
(健保法3条1項2号ロ。厚年法12条1号ロも同じ)
「超えて使用されることが見込まれない」場合だけが除外になる。
逆に言えば、2か月以内の契約でも、更新して2か月を超えることが見込まれるなら、最初から加入になる。
派遣元との雇用契約は3か月などで結ばれることがある。その場合は初日から対象になる。
雇用保険は要件が違う
条文が挙げる適用除外は、次のとおり(雇用保険法6条)。
| # | 適用しない人 |
|---|---|
| 一 | 1週間の所定労働時間が20時間未満である者 |
| 二 | 同一の事業主に継続して31日以上雇用されることが見込まれない者 |
| 三 | 季節的に雇用される者で一定のもの |
| 四 | 学校の学生・生徒で、省令で定める者 |
| 五 | 一定の船員 |
| 六 | 国・地方公共団体等の一定の者 |
健康保険と違って、会社の規模は関係ない。週20時間以上で31日以上の見込みがあれば入る。
「同一の事業主」なので、派遣元が同じかどうかで判断することになる。派遣元との雇用が続く限り、派遣先が変わっても切れない。ただし雇用契約そのものが終われば別になる。
労災保険は全員
要件が無い。 労災保険は「労働者を使用する事業」に適用される(労災保険法3条1項)。週1日でも、1日だけでも対象になる。
保険料は全額が事業主負担になる。給与から引かれることはない。
詳しくは労災の記事で扱っている。
明細で確かめる
給与明細の控除欄を見る。
| 名前 | 何の保険か |
|---|---|
| 健康保険料 | 健康保険 |
| 介護保険料 | 40歳以上65歳未満の人。健康保険と一緒に引かれる |
| 厚生年金保険料 | 厚生年金 |
| 雇用保険料 | 雇用保険 |
| (労災保険料) | 引かれない。全額が会社負担 |
労災保険料が引かれていたら、それは誤りになる。
契約が途切れたらどうなるか
派遣は契約が切れる期間ができることがある。
雇用契約が終われば、原則として資格を失うことになる。次の派遣までの間に空白があれば、その間は国民健康保険・国民年金に切り替わるのが原則になる。
資格を失ったあとの健康保険には、いくつか選択肢がある。
| 任意継続 | それまでの健康保険を続ける。2か月以上被保険者だった人が申し出る(健保法3条4項) |
|---|---|
| 国民健康保険 | 市区町村の保険に入る |
| 家族の扶養に入る | 条件を満たす場合 |
どれがよいかは保険料と給付で変わる。選択肢があることだけ知っておき、切れる前に確認する。
実務上は、次の就業が決まっている場合の扱いが問題になる。ここは行政の運用によるため、この記事では踏み込まない。派遣会社に「空白期間の保険はどうなるか」を先に聞くことになる。
登録するときに聞くこと
1. 自分は加入対象か(週の所定労働時間と、通常の労働者との比較)
2. いつから加入になるか(就業初日か、2か月経ってからか)
3. 契約が途切れたときの扱い
4. 健康保険は協会けんぽか、健康保険組合か(保険料率と付加給付が変わる)
2は特に確かめる。 「2か月経ってから」と言われたら、その契約が2か月を超えて続く見込みかどうかを確認することになる。
出典
- 健康保険法 第3条第1項(被保険者と適用除外。第2号ロ=2か月以内の期間を定めて使用される者、第9号=短時間労働者の要件)(e-Gov法令検索・2026年8月25日取得)
https://laws.e-gov.go.jp/law/211AC0000000070 - 厚生年金保険法 第12条(適用除外。第1号ロ・第5号)(e-Gov法令検索・2026年8月25日取得)
https://laws.e-gov.go.jp/law/329AC0000000115 - 雇用保険法 第6条(適用除外。第1号=週20時間未満、第2号=31日以上の雇用見込み)(e-Gov法令検索・2026年8月25日取得)
https://laws.e-gov.go.jp/law/349AC0000000116 - 労働者災害補償保険法 第3条第1項(適用事業)(e-Gov法令検索・2026年8月25日取得)
https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000050 - 公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律 附則第46条(特定適用事業所=特定労働者の総数が常時50人を超えるもの、特定4分の3未満短時間労働者の扱い)。健康保険法のページに附則として収録されている(e-Gov法令検索・2026年8月25日取得)
https://laws.e-gov.go.jp/law/211AC0000000070 - 厚生労働省「社会保険適用拡大特設サイト|社会保険加入の要件」(加入要件、2026年10月の賃金要件撤廃予定、企業規模要件の段階的引下げ=2027年10月に36人以上、2029年10月に21人以上、2032年10月に11人以上、2035年10月にすべての規模。2026年8月25日取得)
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/jugyouin/taisho/


