介護の現場は、移乗や入浴の介助で腰を痛める。転倒する。感染する。けがが起きうる仕事になる。
派遣で困るのは、どちらの会社に言えばいいのかが分からないことになる。
先に結論を書くと、こうなる。
| 労災保険 | 派遣元のもの。請求のときに事実を証明するのも派遣元 |
|---|---|
| 現場の安全 | 派遣先の責任。設備、作業手順、危険な作業の教育 |
| 役所への報告 | 両方が出す |
まず病院に行く。そのとき言うこと
窓口で「仕事中のけがです」と伝える。
健康保険証を出して普通に受診しない。 労災は健康保険を使わない。あとから切り替えることはできるが、手間がかかる。
労災指定病院なら、窓口で自己負担なしで治療を受けられる。指定外なら一度払って、あとで請求することになる。
もう健康保険を使ってしまった場合も、切り替えられる。受診した病院か、労働基準監督署に相談する。早いほど手間が少ない。
労災保険は派遣元のもの
労災保険は、労働者を使用する事業に適用される(労働者災害補償保険法第3条第1項)。派遣で雇っているのは派遣元になるので、派遣元の労災保険が使われる。
働いていたのが派遣先でも、ここは変わらない。
請求のときは、派遣元が、いつ・どこで・どういう状況で起きたかを証明することになる。派遣元はその場にいないので、派遣先から状況を聞いて書く流れになる。
事故が起きた場所は派遣先、手続きを進めるのは派遣元。だから両方に伝えることになる。
派遣元が証明を書いてくれないときも、請求そのものは止まらない。その場合は労働基準監督署に相談する。
何が出るか
労災保険の給付は、法律で種類が決まっている(同法第7条第1項)。
| 何に対するものか | |
|---|---|
| 業務災害に関する給付 | 業務上の負傷・疾病・障害・死亡 |
| 複数業務要因災害に関する給付 | 2つ以上の事業の業務が原因のもの |
| 通勤災害に関する給付 | 通勤による負傷・疾病・障害・死亡 |
| 二次健康診断等給付 | 健康診断の結果を受けたもの |
掛け持ちで働いている人のための給付がある(複数業務要因災害)。派遣は複数社に登録することがあるので、当てはまることがある。
通勤中も対象になる
通勤災害の「通勤」は、条文で定義されている(同法第7条第2項)。
- 住居と就業の場所との間の往復
- 厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動(=掛け持ちの移動)
- 往復に先行または後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る)
そのうえで条件がある。合理的な経路及び方法による移動であることになる。
そして、経路を外れたり、中断したりすると、その間とその後は通勤にならない(同条第3項)。
ただし例外がある。日常生活上必要な行為を、やむを得ない事由により、最小限度で行った場合は、その間を除いて通勤に戻る(同項ただし書)。
現場の安全は派遣先の責任
労働安全衛生法の義務は、派遣元と派遣先で分かれている。一定の義務については、派遣先を事業者として扱うという作りになっている(派遣法第45条第3項)。
| 何のこと | 責任を負うのは | 根拠 |
|---|---|---|
| 危険・健康障害を防ぐ措置(安衛法20〜25条) | 派遣先 | 派遣法45条3項 |
| 危険有害業務の特別教育(59条3項) | 派遣先 | 同上 |
| 就業制限のある業務(61条1項) | 派遣先 | 同上 |
| 作業環境の測定・管理(65条〜65条の4) | 派遣先 | 同上 |
| 雇入れ時・作業内容変更時の教育(59条1項・2項) | 雇入れ時は派遣元/変更時は両方 | 派遣法45条1項 |
| 一般健康診断(66条1項) | 派遣元 | 45条3項の列挙に入っていない |
| 特殊健康診断(66条2項以降) | 派遣先 | 派遣法45条3項 |
「危ないことをさせない」責任は派遣先になる。派遣先が「うちの社員じゃないから」とは言えない。

報告は、派遣元と派遣先の両方が出す
労働者が労働災害で死亡または休業したとき、事業者は労働者死傷病報告を労働基準監督署長に提出しなければならない(労働安全衛生規則第97条第1項)。
派遣で効いてくるのは、この報告に書く項目になる。
派遣労働者が労働災害等により死亡し、又は休業した場合は、当該報告を行う事業者が当該派遣労働者に係る派遣先又は派遣元事業主のいずれに該当するかの別並びに当該派遣先の事業場の名称及び郵便番号
(同項第7号)
「報告を行う事業者が派遣先か派遣元か」を書く欄がある。つまり、どちらも報告する側になりうるという前提で作られている。
派遣法第45条第15項が、安衛法第100条(報告等)の「事業者」を「事業者(派遣先の事業者を含む)」と読み替えている。これが根拠になる。
休業が4日に満たないときは、四半期ごとにまとめて報告する(安衛則97条2項)。休業が1日でもあれば報告の対象になる。
休んだ日の賃金はどうなるか
2段になっている。
| いつ | 何が出るか | 誰から | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 休業の1日目から3日目 | 平均賃金の100分の60の休業補償 | 使用者(=派遣元) | 労基法76条1項 |
| 休業の4日目から | 給付基礎日額の100分の60の休業補償給付 | 労災保険 | 労災保険法14条1項 |
最初の3日間だけ、労災保険ではなく会社が払うという形になる。
理由は労基法84条1項にある。労災保険から相当する給付が行われるときは、使用者は補償の責を免れると定められている。4日目からは保険が出るので会社は免れ、出ない3日間だけが会社に残ることになる。
給付基礎日額は、労基法12条の平均賃金に相当する額になる(労災保険法8条1項)。
やること
1. 手当てを受ける。窓口で「仕事中のけが」と伝える
2. 派遣先の担当者に、その場で伝える。あとから言うと状況が確かめられなくなる
3. 派遣元に連絡する。労災の手続きは派遣元が進める
4. 記録を残す——日時、場所、何をしていたか、誰が見ていたか、どこを痛めたか
その場で言えなかった場合も、あきらめない。 腰痛のように、あとから出るものもある。いつからどう痛むかを記録しておく。
「労災にしないでほしい」と言われたら
労災は使用者が決めるものではない。労働基準監督署が判断する。
保険料が上がることを理由に、労災の使用を避けようとする話が出ることがある。それに従う義務は無い。
休業中は解雇できない
条文がはっきりしている。
使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間(略)は、解雇してはならない。
(労働基準法第19条第1項)
療養で休んでいる間と、そのあと30日間は解雇できないことになる。使用者は雇っている側なので、派遣元が対象になる。
ただし解雇と、契約期間の満了は別物になる。期間が満了して更新しないことは、解雇ではない。ここは分けて考える。
申告したことを理由とする不利益も禁止
| 何を理由とするものか | 誰が禁じられているか | 根拠 |
|---|---|---|
| 労働基準監督署などへの申告 | 使用者(=派遣元) | 労働基準法第104条第2項 |
| 厚生労働大臣への申告(派遣法違反の事実) | 派遣元と派遣先の両方 | 派遣法第49条の3第2項 |
相談先
| どこ | 何を扱うか |
|---|---|
| 労働基準監督署 | 労災の請求、安全衛生。労災保険の窓口はここになる |
| 都道府県労働局の需給調整事業部(課) | 派遣の仕組みに関わること |
| 総合労働相談コーナー(全国378か所) | どこに行くか分からないとき。無料・予約不要 |
派遣元が動かないときも、直接ここに相談できる。
出典
- 労働者災害補償保険法 第3条第1項(適用事業)、第7条(保険給付の種類、通勤の定義、逸脱・中断)、第8条第1項(給付基礎日額)、第14条第1項(休業補償給付は第4日目から)(e-Gov法令検索・2026年8月25日取得)
https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000050 - 労働安全衛生規則 第97条(労働者死傷病報告。第1項第7号=派遣先・派遣元の別、第2項=休業4日未満の報告)(e-Gov法令検索・2026年8月25日取得)
https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032 - 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律 第45条第1項・第3項(労働安全衛生法の適用に関する特例)、第45条第15項(第100条の「事業者」に派遣先の事業者を含む読み替え)、第49条の3第2項(申告を理由とする不利益取扱いの禁止)(e-Gov法令検索・2026年8月25日取得)
https://laws.e-gov.go.jp/law/360AC0000000088 - 労働基準法 第19条第1項(療養のための休業期間とその後30日間の解雇制限)、第76条第1項(休業補償)、第84条第1項(労災保険から給付があるときは使用者は補償を免れる)、第104条第2項(申告を理由とする不利益取扱いの禁止)(e-Gov法令検索・2026年8月25日取得)
https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049


